ハードボイルドとは


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 ハードボイルド  
2008/03/24 日記<ハードボイルド>

ハードボイルド



ハードボイルド(hardboiled)とは、元来は「堅ゆで卵」(白身、黄身の両方ともしっかり凝固するまで茹でた鶏卵)のこと。転じて、感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情な、(精神的・肉体的に)強靭な、妥協しない、などの人間の性格を表す言葉となる。文芸用語としては、反道徳的・暴力的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体をいい、アーネスト・ヘミングウェイの作風などを指す。また、ミステリの分野のうち、従来の思索型の探偵に対して、行動的でハードボイルドな性格の探偵を登場させ、そういった探偵役の行動を描くことを主眼とした作風を表す用語として定着した。

主人公は軟弱な生き方を拒否するタイプが多いため、近年の日本作家の作風は冒険小説との境界が曖昧である。映画(主にハンフリー・ボガート)の影響から、トレンチコート(コートの中はスーツ)に身を包みソフト帽を被ったタフガイというイメージで語られることが多い。そういうイメージとしての「ハードボイルド」には、タバコの紫煙やバーボンなどの小道具、危機に陥った時の、それをものともしないような軽口も挙げられる。こうしたハードボイルド的イメージは完全に記号化されているため、この点を逆手に取ったパロディも多く存在し、「男性用のハーレクイン・ロマンス」(斎藤美奈子)という揶揄も否定できない面がある。


>>ハードボイルド



 歴史  
ミステリのハードボイルド派は1920年代のアメリカではじまる。パルプ・マガジン「ブラック・マスク」誌(1920年創刊)に掲載されたタフで非情な主人公たちの物語がその原型で、同誌にはダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、アール・スタンリー・ガードナーらが寄稿した。特にハメットは『血の収穫』(1929)や『マルタの鷹』(1930)などにおいて、簡潔な客観的行動描写で主人公の内面を表現し、ハードボイルド・スタイルを確立した。『大いなる眠り』(1939)で長篇デビューしたチャンドラーは、ハメットのスタイルに会話や比喩の妙味を加え、独特の感傷的味わいをもつ『さらば愛しき女(ひと)よ』(1940)、『長いお別れ』(1953)などのフィリップ・マーロウ・シリーズを発表した。また、1940年代からはハリウッド映画でも多くのハードボイルド・スタイルの作品が作られた。

ハメットやチャンドラーの作品には、「西部開拓精神を内に宿した主人公がアメリカ社会の諸問題に対処していく物語」という面があり、『動く標的』(1949)で私立探偵リュー・アーチャーを登場させたロス・マクドナルドは、その後継者とされる。一方、『裁くのは俺だ』(1947)でデビューしたミッキー・スピレインは暴力とセックスを扇情的な文体で描き、「暴力的ハードボイルド」の代名詞となったマイク・ハマー・シリーズは驚異的ベストセラーを記録する。

1940年代の終りから1950年代にかけて、銃と軽口がうまく女にもてる私立探偵が、おもにペイパーバック・オリジナルで大量にあらわれる。『マーティニと殺人と』(1947)でピーター・チェンバーズを登場させたヘンリイ・ケイン、『消された女』(1950)でシェル・スコットを登場させたリチャード・S・プラザー、『のっぽのドロレス』(1953)でエド・ヌーンを登場させたマイクル・アヴァロン、The Second Longest Night (1955)でチェスター・ドラムを登場させたスティーヴン・マーロウなどが主な作家である。極め付きはオーストラリア作家のカーター・ブラウンで、1958年からアメリカのペイパーバックに登場し、健全なお色気とユーモアにあふれた作品を、毎月一冊というペースで発表した。また、G・G・フィックリングの『ハニー貸します』(1957)で登場したハニー・ウェストはセクシーな女性私立探偵として人気を博し、テレビ・シリーズにもなった。

1960年代になると、アメリカ社会の問題は個人の行動だけでは対処できなくなる。ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーは事件を見つめるだけで行動しなくなり、次第に内省的になっていく。これをうけて、1960年代末から1970年代にかけては、社会的問題を正面から扱うよりも、探偵の個人的問題を通して社会を描くような作品が多くなる。主な作家には、マイクル・コリンズ、ジョゼフ・ハンセン、ビル・プロンジーニ、マイクル・Z・リューイン、ロジャー・L・サイモン、ロバート・B・パーカー、ローレンス・ブロックなどがいる。

また、1960年代後半からはじまったフェミニズム運動と女性の社会進出により、1980年代には女性作家が女性の私立探偵を主人公にした作品を書くようになる。まずマーシャ・マラーのシャロン・マコーンが『人形の夜』(1977)で登場し、続いてサラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキーが『サマータイム・ブルース』(1982)で、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンが『アリバイのA』(1982)で登場した。以後、リアリスティックな女性私立探偵小説は一大潮流となる。

1970年代以降の作品の多くは、文体も主人公たちの性格もハードボイルドではないため、私立探偵を探偵役にしたミステリは、私立探偵小説(PIノヴェル Privete Eye Novel)という名称で呼ぶのが一般的になった。

こうした私立探偵小説の流れとは別に、ハードボイルド文体で描かれた犯罪小説がある。ハメットと同時期の作家で、ハードボイルド文体の創始者としてあげられるのが『リトル・シーザー』(1929/映画「犯罪王リコ」の原作)のW・R・バーネットと、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1934)のジェームズ・M・ケインである。「ブラック・マスク」誌の出身であるが独自の道を歩んだホレス・マッコイは、『彼らは廃馬を撃つ』(1935)で大恐慌時代の明日なき青春を冷徹な筆致で描く。また『ミス・ブランデッシの蘭』(1939)で登場したジェイムズ・ハドリー・チェイスは、イギリス人ではあるがアメリカ英語で作品を発表。『殺人のためのバッジ』(1951)など警察官を主人公としてアメリカの社会問題を描こうとしたウィリアム・P・マッギヴァーン、ハメット・スタイルで書かれた『やとわれた男』(1960)でデビューしたドナルド・E・ウェストレイクもハードボイルド小説に新風をもたらした。これらの作品の手法・文体は映画の影響をうけた部分もあり、また多くの作品が映画化されることによる相互作用で、ハードボイルド・タッチは熟成していった。
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